比叡山を借景に!正伝寺
京都の町をぶらり散歩していると、まるで絵画のような風景と出会うことがあります。京都の街並みや寺院がこうも美しいのは、四季折々の自然とまちを織り成す風情や建築物との調和がとれているからでしょう。
そんな絵に描いたような絶景は、京都の随所に存在します。その中でも今日は、お気に入りの一つを、散歩とともにご案内したいと思います。
本日向かう先は、京都市北区の西賀茂。深い緑の中にひっそりと佇んでいるのが、臨済宗南禅寺派の禅寺「正伝寺」です。山門をくぐり、木漏れ日の中を進んでいくと、入母屋造りの方丈(本堂)が姿を現します。
まずはこの、静かな境内の中で圧倒的な存在感を放つ「方丈」で、散歩の足を休ませます。
国の重要文化財でもある荘厳な「方丈」は、伏見桃山城の遺構を移したものとされています。室内の天井は、四方が丸く折り上がった「折上格天井(おりあげごうてんじょう)」となっており、この建造物がいかに格式の高いものであるかを伝えています。
「方丈」の襖絵は、狩野山楽の筆による淡彩山水画です。重要文化財に指定されるほど貴重な山水画なのですが、「正伝寺散歩」では、これを間近で拝見することができます。ぜひ目の前で、繊細かつ力強い筆使いを感じてください。とはいっても、現物がこうも露わにありますと、非常に気を使うものですが……。
さて、さらに押さえておきたいのが、「正伝寺」の「血天井」です。「方丈」の広縁の天井を見上げますと、黒い斑点の模様が見られます。これは「関ヶ原の戦い前に、伏見城で割腹した鳥居元忠らの血痕」と、言われています。
近年、この血痕を実際に分析したところ、368年以前の人のものであることが、証明されたそうです。京都で城を守り難渋、苦渋した先人たち。彼らが無念にも果てた廊下を、天井に用いた理由は、一体何なのでしょうか。供養、もしくは平和へのメッセージだったのかもしれません。何度散歩で訪れても心が震えるのを禁じ得ません。
さて、落ち着いた空気の中、さらに散歩の足を進めて行きましょう。この「方丈」の前には、禅寺らしい「わびさび」の風格ある庭園があり、これをお目当てに京都散歩へ訪れている方も多くいらっしゃいます。
この庭の枯山水は、美しさもさることながら、絵画を鑑賞しているようでもあります。白砂の上に置かれているのは、石ではなく、丸々と刈り込まれた皐月の木なのです。塀の上に見えるのは、遥かにそびえたつ比叡山。これを借景に、優美な空間を作り出しています。
春夏秋冬、晴れの日も雨の日も、どの時刻も、そしてどの角度から眺めても、絵になる場所。まさに、自然と人の手が作り上げた、芸術だと言えます。京都の地がもたらす静寂の中、広縁に座してこの眺望を目にし、じっくりと沈思黙考するのに最適な場だと言えるでしょう。
穏やかな時間を過ごした後、もう少しぶらり散歩を続けたいなと思う時、この周辺では、送り火の「船形」や奇才北大路魯山人のお墓があり、ふと立ち寄るのも一興です。ゆっくりとした時間の流れている京都。その、緑豊かな風景を楽しみながら、そぞろ歩きをしてみるのも、良いのではないでしょうか。
参考URL
http://shodenji-kyoto.jp