京都のまちなかでは、植物たちが活き活きと茂り夏らしくなり、散歩への気概も高まって来ました。「沙羅の花」を一度見たいと思い、京都市右京区にあります「東林院(とうりんいん)」へと広大で静寂な妙心寺の境内をぽつぽつと散歩しながら訪れました。
「東林院」は臨済宗妙心寺の塔頭の一つで、普段非公開となっていますが、1月、6月、10月に特別拝観の期間が設けられており、この6月は「沙羅の花を愛でる会」が開催されます。6月15日から30日の期間、会では境内に咲く沙羅を眺めながら、抹茶や精進料理を賞味できます。
また、1月15日~31日には、「小豆粥で初春を祝う会」、「10月12日~21日」には、「梵燈のあかりに親しむ会」が開催されるとのことです。観光の時節を見計らって、京都まちなか散歩をされてみてはいかがでしょうか。
釈迦(しゃか)に縁(ゆかり)がある木として沙羅双樹は有名ですが、この樹は寒さに弱く、国内ではほとんど生育しないことはあまり知られていません。その代わりに、「夏椿」を「沙羅の樹」として、古来より尊んで来ました。
「東林院」への京都まちなか散歩で見られるのは、樹齢300年を超える十数本の夏椿です。この夏椿は「一日花」で、朝に開いた花が夕方には散ってしまいます。美しく咲き、はかなく散り地に落ちる、無常を感ぜずにはいられませんでした。
そんな光景を眺め、青苔に落花の風情に魅せられながら、頭に浮かぶのはやはり平家物語の冒頭でした。
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす
おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし
たけき者もついには滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ
いただいた「沙羅」というパンフレットには、こう書かれていました。
「沙羅の花は一日だけの生命を悲しんでいるのではなく、与えられた一日だけの生命を精一杯咲きつくしています。」無常ゆえの人の世、今を精一杯生きることの大切さを物語っているのではないでしょうか。
この特別拝観は大勢の方が心待ちにしていた日でもあり、「一人静かに」という訳には、まいりませんでした。しかし、落ち着いた京都の風情を感じながら、美しい風景も眺めつつお茶も頂き、得心のいく京都まちなか散歩となりました。
京都まちなか散歩の帰路、願わくば、沙羅双樹を前に一人座してじっくり「自然の理や無常」について沈思してみたいという感慨が残りました。
参考URL
https://ja.kyoto.travel/tourism/single02.php?category_id=7&tourism_id=431